- 食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療
- 胸部と腹部の間の横隔膜にある食道裂孔という食道が通る孔がゆるんで大きくなり、胃が胸の中に脱出する状態を食道裂孔ヘルニアといいます。近年高齢化社会化、肥満人口の増加などが原因で食道裂孔ヘルニアの患者さんが増加傾向にあり、内視鏡検査を受ける約半数の方に食道裂孔ヘルニアが見つかるともいわれています。逆流性食道炎は多くの場合胃が軽度脱出した滑脱型食道裂孔ヘルニアを合併しており、胸やけ・げっぷ・胸痛などが主な自覚症状です。生活指導や内服治療などで改善しない場合は外科的治療が有効な場合があります。またご高齢の方を中心に増加傾向なのが、胃の大部分が胸の中に脱出した混合型食道裂孔ヘルニアです。胃が大きく脱出していると胸の中でねじれて胃からの食物の排出が悪くなり吐き気・嘔吐・胸痛の症状を伴うことがあります。また胸に脱出した胃により心臓や肺が圧迫されて、運動時の息切れや胸の圧迫感、動悸などの症状を起こすこともあり、生活の質(Quality of Life : QOL)が低下してしまいます。治療法は外科的治療しかありません。当院では高齢者の方にも安全に手術を受けていただけるように腹腔鏡下に低侵襲な手術を行っています。胃を腹腔側に引き戻し、食道裂孔を縫い縮め、逆流防止の噴門形成術を行います。当院では混合型ヘルニアで心臓に負担がかかっている患者さんにも積極的に手術を行い、術後には心臓への負担が軽減していることを発見し、世界に論文報告しています。
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図1 混合型食道裂孔ヘルニアにより胃が縦隔に脱出し、心臓を圧迫している状態
図2 食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡手術
- 食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術
(POEM) -
食道アカラシアは、食道の出口(食道と胃のつなぎ目)が開かなくなること、食道のスムーズな蠕動運動に異常をきたすことによって、食道から胃への飲食物の通過が障害される稀な疾患で、食事のつかえ感や嘔吐(逆流)、体重減少、胸痛などの症状をきたします。
従来からの治療法として、薬物治療やバルーン拡張術、外科手術(Heller-Dor手術)がありますが、薬物治療やバルーン拡張術は効果が不十分もしくは長期的な効果が乏しいとされ、外科手術が最も治療効果が高いとされていました。経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral Endoscopic Myotomy: POEM)は、2008年に井上晴洋医師ら(現 昭和大学江東豊洲病院消化器センター教授)が世界に先駆けて開発した治療法です(図3)。
経口内視鏡を用いて体表に傷をつけずに食道の筋肉を切開する方法で、外科手術と同等以上の治療効果が期待でき、その高い有効性と低侵襲性が認められ、多くの患者様で高い満足度が得られています(図4)。
当院においては、2016年1月に井上晴洋医師の指導のもと中四国地方ではじめてPOEMを導入し、2017年5月より保険診療で施行可能となり、2022年までに累計178例の患者様に治療を行っています(図5)。
POEMは、すべてのタイプの食道アカラシアとびまん性食道痙攣症などの一部の類縁疾患で適応となります。食道アカラシアやその他の食道運動障害でお困りの患者様がおられましたら、当院食道疾患センターへお問い合わせください。
図3 食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術(POEM)-
図4 POEM前後の食道X線造影検査
図5 POEM施行症例の累積数
- その他
- 逆流性食道炎、好酸球性食道炎
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炎症性疾患
食道にはがん以外にも食べものがつかえる感じや酸が上がるなどの症状で病気が見つかることがあります。多くの患者さんは逆流性食道炎といった胃酸が食道へ上がってくることによる症状であることが多く、生活指導や胃酸を低下させる薬を内服する事で治療を行っていきます。また、近年、好酸球性食道炎といった特殊な食道炎の報告も日本で増えてきており、逆流性食道炎と思って治療を行っても改善しない場合にはこのような病気も疑って検査を行う必要があります。主に内視鏡検査やそれに伴う組織検査により診断がつけば疾患によって主に内服薬による治療を行いますが、症状や病状に応じて難治性の場合には外科的治療を行うこともあります。 - 食道静脈瘤
- 肝臓が固くなる肝硬変という病気を持たれている方は食道や胃に静脈瘤ができることがあります。静脈瘤は大きくなると出血することがあるため、必要に応じて予防的な治療を行うことがあります。予防的な治療を行う判断のためには上部消化管内視鏡検査が必要ですので、肝臓の病気に罹患されている方は定期的な上部消化管内視鏡検査をお勧めいたします。