- 治験について
- 食道がん治療においては、まだ確立されていない集学的治療法や、新規治療薬を用いたあらたな治療法など、さまざまな新しい試みが行われております。当院では、食道がんの進行度または全身状態などの理由で手術や標準的な化学放射線療法を受けることが困難な患者さんに対しても最善を尽くせるよう、さまざまな新規先進医療にも積極的に取り組んでいます。より負担の少ない先進医療として現在開発進行中なのが、岡山大学発の腫瘍融解ウイルス(テロメライシン®)を用いた治療です。抗がん剤治療より負担の少ないウイルス治療と放射線療法の併用により、ご高齢やリスクの高い患者さんでも受けることができる治療法の開発を目指しています。2013年に、世界初となる食道がんに対するテロメライシンと放射線療法の併用療法の臨床研究を当院にて開始しました。治療の安全性と有効性が認められ、2017年からは岡山大学発の創薬バイオベンチャー企業であるオンコリスバイオファーマによる第1相企業治験を開始しました。そして日本国内において2019年4月に厚生労働省より先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、現在は、中外製薬による、多施設共同の第2相治験が進行中です。この第2相治験を経ての将来的な薬事承認を目指しております。加えてテロメライシンと免疫チェックポイント阻害薬とを併用した多施設共同の第1相医師主導治験も進行中です。また腫瘍融解ウイルス療法以外でも、進行食道がんに対する新たな集学的治療の開発に向けて、通常化学療法・放射線療法に新規治療薬である免疫チェックポイント阻害薬を加えた新規集学的治療の企業治験にも携わっています。さらに、最近では岡山大学病院、がんゲノム医療中核拠点病院を背景とした個々の患者さんの遺伝子診断を元に適切な治療薬の提案などがんゲノム医療を推し進めています。
- 放射線治療・陽子線治療
- 陽子線治療は新しい放射線治療のひとつです。陽子線とは粒子線の一種で、通常の放射線治療で用いるX線と異なり、からだの中をある程度進んだあと、急激に高いエネルギーを周囲にあたえそこで消滅するという性質を持っています。この性質により病変部周囲のみに高いエネルギーを与えることができ、病変より奥の正常組織を守ることが可能です。X線と比べると、病変部に同じ線量を投与する場合は正常組織の線量が低下することから副作用の減少を期待でき、正常組織に同じ線量まで投与する場合は病変部に高い線量を投与できることから高い効果を期待できます。例えば肺腫瘍に対する放射線治療の場合、X線であれば病変部以外に肺や心臓に不必要に放射線があたりますが(図1)、陽子線治療の場合、大幅に減少します(図2)。
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図1 X線
図2 陽子線
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津山中央病院は岡山大学と共同運用で、「岡山大学・津山中央病院共同運用 / がん陽子線治療センター」を津山中央病院の敷地内に開設し、平成28年4より治療を開始、同年7月より先進医療で治療を開始しています。
先進医療の医療費は、全てが公的保険でカバーされておらず陽子線治療の技術料として288.3万円(津山中央病院の場合)の自己負担が必要で、その他の入院・薬剤・検査等は保険が適応される仕組みです。食道がん(食道や胸のレベルのリンパ節転移)に対する治療は、先進医療として陽子線治療をおこなっています。食道がん術後の肺・肝臓・リンパ節など個数の限られた転移に対しても陽子線治療は大きな威力を発揮します。X線治療や陽子線治療の効果・副作用、メリット・デメリット等、外来にてご説明しております。
津山中央病院は中四国地方では初の陽子線治療施設であり、岡山大学病院と同様に集学的治療(抗がん剤、手術、放射線治療等を組み合わせた治療)を行うことができる病院です。がん以外の病気をお持ちの方は多いですし、がん治療中に脳や心臓に救急対応が必要な疾患を発症することもあります。これらがん以外の病気への救急対応も可能な総合病院としては福井以西の西日本で初の陽子線治療施設となります(図3)。
図3 岡山大学・津山中央病院共同運用 / がん陽子線治療センター- 津山中央病院にはブロードビーム法から次世代のスポットスキャニング法までを1台で行うことのできる新しい陽子線治療機器が設置されています(図4)。
図4 陽子線治療機器-
「岡山大学・津山中央病院共同運用 / がん陽子線治療センター」の詳細はhttp://top.tch.or.jp/index.htmlもご参照下さい。
岡山大学病院では平成28年1月から「放射線治療・陽子線治療外来」を開設し外来診療を行っております。主治医、当院の各科・センターの専門家と協力して、X線による放射線治療を行っています。また、陽子線治療の適応判断、治療前の準備のサポートや津山中央病院への紹介を行なっています。
岡山大学以外の病院から当科へのご紹介は地域医療連携室にご連絡いただければと存じます。津山中央病院にも「陽子線治療外来」を開設しておりますので、予約いただいて受診されることも可能です。主治医の先生よりご紹介頂くようになりますので、まずは主治医の先生とご相談下さい。なお、患者様から直接のご相談は、津山中央病院「陽子線治療外来」0868-21-8150にお願い致します。
- JCOG
- 当院はJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)食道班のメンバーとして、食道がんに対するさまざまな全国多施設共同臨床研究に参加しております。JCOGは日本最大の臨床試験グループであり、様々ながんに対する前向きの多施設共同臨床試験を行っています。この臨床試験で得られた成果をもとに、現在の標準治療を上回るさらなる有効性の高い新たな治療を確立し、国内外に発信することで、がん治療の質と治療成績の向上を図ることが目的であります。臨床試験を行う治療法は、抗腫瘍薬の組み合わせによるがん薬物療法や、さらにこれを手術や放射線療法などと組み合わせた集学的治療、また内視鏡治療の分野など、があります。当院は食道がん治療における日本のリーディングホスピタルとして、これら新しい治療を確立する全国規模の試験にも積極的に参加し、全ての患者さんに対して最新で最適な治療を提供できるように取り組んでおります。
- ロボット支援下手術に
ついて -
当院では、食道がん手術に対してda Vinci Xi Surgical Systemを用いたロボット支援下手術を積極的に行っております。内視鏡手術支援ロボットを使用して行う新しい内視鏡外科手術です。従来の胸腔鏡下手術においては、奥行き感の少ない二次元の画面をみながら、長くて関節がない鉗子を用いて行っております。
そのため手術の場面によっては技術的に難しいところがあります。その点を改善するといわれているのが、内視鏡手術支援ロボットです。da Vinci Xi Surgical Systemで使用するロボットアームに装着する手術道具は、自由に動くことのできる多関節機能をもち、手振れ防止機構を備えているため、従来の胸腔鏡手術では不可能であった高次元で繊細な動きが可能になっています。また術者は高精細な三次元拡大映像を見ながら手術を行うことができます。鮮明で詳細に術野を観察することが可能となっておりより繊細な手術を行うことができ、臓器機能を温存しつつ、がんをより確実に切除することができる安全な食道がん手術が可能となりました。
2018年度からロボット支援下手術の認定医が在籍する認定施設となり、ロボット支援下食道がん手術を導入しました。2019年度には48例施行し全国トップレベルの実績となり、その後も年間40例以上の患者さんに施行しており、2022年6月現在で累積200例を超える実績となっています。
多くのロボット支援下食道がん手術を行うことで術式が安定化してきました。ロボット手術の多くの利点を活かして、近年では、通常の胸腔鏡や開胸手術では根治手術を行うことが難しいような高度進行食道がんに対しても、積極的にロボット支援下手術を行い、安全性と根治性を両立させる手術を実現させています。多数の胸腔鏡手術を行ってきて得られた技術と知識を、ロボット支援下手術に応用することで、さらなる手術成績の向上と患者さんの早期社会復帰、QOL(生活の質)の向上に貢献できることが期待されています。